「ランニングって、結構サボっていくスポーツなんですよ」
先日、走るのが苦手なお客さまのレッスンの最後に、こうお伝えしました。
レッスン前のフォームを見ていて、「運動はきついもの、力を入れてやるもの」という思いが強いのかな、と感じたからです。
これは、走るのが苦手な方だけの話ではありません。サブ4やサブ3.5を狙う方にも、同じ話をすることがあります。
一生懸命走っているのに、なぜかきつい。そういう方は、脚の力で地面を押しすぎています。
結論から言うと、ランニングは、脚の力で地面を押して進むスポーツではありません。体重を足の上に乗せて、その跳ね返りで進むスポーツです。頑張って押すほど、跳ね返りはもらえなくなります。
今回は、その話です。
なぜ「サボる」ほうが進むのか
ランニングフォームについては、本やYouTubeで、いろいろな人がいろいろなことを言っています。でも、もとになっている理論は、実は1つしかありません。皆さん、伝え方が違うだけです。
それが、身体を1本のバネとして考える「スプリングマスモデル」です。1989年に発表された研究がもとになっています。
バネの中心は、アキレス腱です。
着地した瞬間に、体重を足の真上から乗せる。すると、加えた分だけ跳ね返ってきます。物理で習った作用・反作用です。バネは真上から押すとよく跳ねますが、横から押してもあまり跳ねません。
そのままだと真上に跳ぶだけなので、横から見て、身体をほんの少しだけ前に傾けておく。すると、跳ね返りが斜め上方に向かいます。
これを繰り返すと、脚の力で蹴らなくても、体重の移動だけで走り続けられる。「サボる」というのは、このことです。
ただし、力がいらないわけではありません。
野球は、バットとボールが当たる瞬間に、自分でグッと力を入れてボールを遠くに飛ばします。ランニングには、その「自分で力を入れるタイミング」が存在しません。力は、着地したときに受動的に返ってきます。
ほかのスポーツをしてきた方ほど、脚に力を入れて地面を蹴らないと、と思いがちです。そうではなくて、返ってきた力に耐えられる腹筋と背筋を持っていると、高い反力を使って、より加速していける。自分で力を加えることはないけれど、跳ね返ってきたタイミングで耐えられる力は持っておかないといけない。それがランニングです。
頑張って走ると、何が起きるか
この方は、普段はほとんど走っていません。周りに走る友人が多く、「足が上がっていない」と言われるそうです(足が上がらない話は、股関節の記事に書きました)。
まず、真横から動画を撮りました。
良いところもたくさんありました。足の回転(ピッチ)はリズミカル。目線はまっすぐ前。両足が地面から離れている間の、胸を軽く開いた姿勢もきれいでした。
一方で、気になったことが3つありました。
1. かかとで着地している
かかと接地そのものが悪いわけではありません。問題は、足を着く位置と、体重の位置の関係です。
着いた足から真上に線を引いたとき、身体の重い部分がその線より後ろに残っていました。重いものが後ろにあると、身体は後ろに倒れようとします。これがブレーキになります。
この方は、そのブレーキを打ち消すぶんまで、自分の脚力で前に進んでいました。前には進めますが、効率が悪く、きつくなりやすい走り方です。
2. 足音が大きい
着地の瞬間は、ほかの人と変わらないはずです。違うのは、着いてから地面を押し込んでいる時間が長いこと。その押し込みが、足音になっていたのだと思います。
3. 着地のたびに腰が沈む
着地するたびに、腰の位置がズーンと下がっていました。
本当はトランポリンのようにポンと跳ねたいのに、足元だけクッションの上を走っているような状態です。跳ね返りが返ってこないので、また脚で押す。押すから、また沈む。この繰り返しです。
3つは、別々の問題のように見えます。でも、根っこは同じです。
体重で跳ね返ってもらう代わりに、脚の力で地面を押して進んでいる。
サブ4やサブ3.5を狙っている方にも、こうした走り方は見られます。ドタバタ走っている方、重心が低くなっている方は、ペースが上がるほど着地の衝撃は大きくなるのに、それを跳ね返りとして使えず、脚で受け止めて押し返すことになる。地面を蹴っている自覚がなくても、起きていることは同じです。
では、どうすれば地面を押さずに走れるのか。
「押さない」感覚は、縄跳びでつかむ
レッスンでは、縄跳びを使います。やり方は4つです。
① その場で軽く跳ぶ
縄跳びをするように、その場で軽く跳びます。縄跳びは、誰でも自然とつま先側で跳ぶようになっています。
② そのまま前に進む
同じ跳び方のまま、少しずつ前に進みます。地面を強く蹴らなくても、問題なく前に進めます。
③ かかとで跳んでみる
今度は、あえてかかとで跳びます。その場で跳んでいるつもりでも、体重がわずかに後ろに残ります。これが、かかと接地で起きるブレーキです。
④ 足裏全体で着く
最後に、母趾球の少し後ろ、土踏まずのいちばん前あたりで着くつもりで跳びます。結果的に、足裏全体でベタッと着く感覚になります。
つま先で着く走り方は、ふくらはぎへの負担が大きくなるので、おすすめしていません。着く場所は、真ん中です。
押す強さも、縄跳びと同じです。縄跳びで腰をグッと落としたら、縄は跳べません。二重跳びが上手な人は、手首のスナップだけで、前跳びの要領で跳んでいます。走るときも、自分で地面を強く押すという感覚は持たないほうがいい。
もう1つ、姿勢です。縄跳びで、お尻を後ろに突き出して跳んでいる人はいません。膝も腰も肩も頭も、全部アキレス腱の上にあるから跳べる。お尻が後ろに残ると、バネを真上から押せなくなって、跳ね返りを使いにくくなります。
縄跳びの感覚のまま走り出すと、あまり頑張らなくても、一歩一歩進む感じが出てきます。それが、自分の体重でエネルギーを生み出せている状態です。
この日のレッスンの終わりには、真横で聞いていても、足音がほとんどしなくなっていました。
走るのが苦手な人は、「楽に長く」を目標にする
この方には、こうお伝えしました。
何キロを何分で走るか、より先に、楽に長く走れることを優先する。「1km楽に走れるようになった」「昨日より少し楽に、少し長く走れた」。それを積み重ねていけばいい。
サボって走れるようになると、景色を見ながら走れるようにもなります。
最後にもう1度、真横から動画を撮りました。最初はかかとで着地していましたが、最後は足裏全体で着地できていて、体重の位置もほぼ足の真上にありました。ただ、腰はまだ沈んでいました。ズボンのポケットにスマホが入っていたのも、理由の1つかもしれません。
フォームは、その場ではきれいになります。難しいのは、それを維持すること。そのための身体の使い方(姿勢・腰の高さ・脚の動かし方)と鍛え方は、連載「フォーム理論」で順に書いています。
走っているときのチェック
足音が大きくなっていないか(押し込んでいるサイン)
お尻が後ろに残っていないか
スマホをズボンのポケットに入れていないか。脚と一緒に揺れたり、手に握って肩や腕が力んだりしないよう、揺れにくい腰のベルトポーチがおすすめです。私はいつも、ベルトポーチに入れて走っています
ランニングは、頑張って地面を押すスポーツではありません。体重を受け止めて、跳ね返りで前へ進む。そのために、余計な力を使わない。
ランニングは、結構サボっていくスポーツなんです。
参考:Blickhan, R. (1989). The spring-mass model for running and hopping. Journal of Biomechanics, 22, 1217–1227.