福岡マラソンの公式サイトには、「初心者にとっても走りやすいコース」とあります。でも、私がこれまで見てきた中では、ほかの大会でサブ4を出せる人が、福岡では4時間ひとケタで帰ってくることも少なくありません。サブ4を狙うなら、31km付近の灘山より先に意識してほしい場所があります。
19〜21km、九州大学伊都キャンパスの坂です。
この坂は、ものすごく急なわけではありません。だからこそ、平地と同じ感覚で走れてしまう。
そこで知らないうちに強度を上げ、後半に使いたい脚を先に使ってしまう。私自身が福岡マラソンを走り、市民ランナーを見てきた中では、ここが後半の失速につながりやすいポイントだと考えています。サブ4を狙う人に、まず覚えてほしいことは3つです。
35km付近までは「隣の人と喋れる余裕」を残す
前半にタイムの貯金を作ろうとしない
本当にペースを上げるのは、二見ヶ浦を越えた桜井から
この記事では、なぜそう考えるのかを、コースの高低図、研究データ、お客さまと私自身のレースから整理します。最後に、大会までの残りの期間で優先してやることもまとめます。
福岡でランニングコーチをしているyamaです。会社員をしながら、これまで500回以上のパーソナルレッスンで市民ランナーを見てきました。糸島出身で、二見ヶ浦は子どものころからよく行き、練習でも走ってきた場所です。
福岡マラソンは私自身も何度も走っていて、ベストは2023年の2時間54分。今年も出場します。
この記事はこんな人向けです
特に読んでほしいのは、次のような人です。
練習もレースも重ねているのに、サブ4や目標タイムにあと少し届かない
30km過ぎに失速した経験がある
福岡マラソン2026に出る
一方、まず完走することが目標の人や、ケガや痛みを抱えている人は、この記事とは別の優先事項があります。
図で見ると、福岡マラソンの山場は2つある

▲図1:コース高低図(福岡マラソン公式サイトの高低図をもとに作成)
福岡マラソンの高低図を見ると、大きな上りは主に2か所あります。
19〜21km:九州大学伊都キャンパス
約25m上り、折り返して下ります。
31km付近:灘山(のらん坂)
公式にも「高低差25mの山場」と紹介されています。
高さだけを見ると、2つはほぼ同じです。それでもレース後に「きつかった」と話題になりやすいのは、後半の灘山です。ただ、私は灘山だけを攻略しようと考えないほうがいいと思っています。
31kmで突然脚がなくなるのではなく、そこまでにどれだけ体力を残してきたかが大事だからです。その意味で、私が特に注意しているのが、約11km手前にある九大の坂です。
九大の坂が怖いのは、「走れてしまう」から
九大の坂は、極端に急ではありません。そのため、時計を見ながら走っていると、「まだこのペースでいける」と思って、そのまま上ってしまいやすい。しかし、同じペースでも、平地と上り坂では体にかかる負担が違います。
坂道でのエネルギー消費を測った研究の式から試算すると、傾改2%の上りを平地と同じペースで走った場合、使うエネルギーは約11%増えます。傾改3%では約17%増えます(出典②)。時計に表示される1kmのペースは同じでも、体の中では負担が大きくなっているということです。
だから九大の坂では、「平地と同じペースを守る」のではなく、「平地と同じくらいの余裕を守る」と考えます。目安を挙げると、サブ4狙いなら、九大の上りで1km5分50秒くらいまで落ちるのは問題ありません。自分のリズムで走った結果、5分50秒前後に収まっているなら、「今日はサブ4を狙えるかも」くらいの感触で大丈夫です。
逆に6分台まで落ちるなら、少し落としすぎかもしれません。あくまで数字そのものを守るのではなく、余裕を残して上った結果としての目安です。
下りは「取り返す」より「ブレーキを節約する」
九大の坂は、上ったあとに下ります。そのため、「上りで少し頑張っても、下りで取り返せばいい」と思うかもしれません。研究の式で計算したエネルギー量だけを見れば、上りと下りである程度は相殺されます(出典②)。
ただし、だからといって上りで上げた強度まで帳消しになるわけではありません。九大の下りで、私がレッスンで伝えているのは3つです。
脚だけでブレーキをかけない。怖くても上半身を少し前に出して、体重を脚に乗せていく
下りは着地する地面が平地より低いので、放っておくと歩幅が伸びやすい。歩幅ではなく、脚の回転数(ピッチ)を上げる
そのために、腕振りを少しリズミカルにする。歩幅が出にくくなり、リズムを取りやすい
ラストスパートの下りなら、脚を伸ばして歩幅を出してもかまいません。でも九大の下りは、ハーフを過ぎたばかりで、ゴールまではまだ長い。ここはタイムを取り返すのではなく、ブレーキを節約しながら下るという考え方です。
31km付近の灘山も基本は同じです。九大より上りも下りも急なので、坂の傾斜に合わせて上半身の傾きを大きくしていくと走りやすくなります。
お客さまの2つのケース
ここで、これまで見てきたお客さまから、対照的だった2つのケースを紹介します。
Aさん:自己ベスト3時間55分、目標サブ4
前半は、とにかくリラックスして走ってもらいました。14km付近で応援したときも、力みのない走りでした。
ゴール前で再び応援したときには、もう脚はほとんど動いていませんでした。それでも、なんとか4時間を切りました。
Bさん:目標サブ4
前半のペースは良かったのですが、14km付近から少しずつきつくなってきたそうです。その状態で九大の坂を上り、上り切ったあたりで少し苦しくなった。そして31km付近の灘山で、脚が動かなくなりました。
「灘山で脚が動かなくなった」という話は、本当によく聞きます。もちろん、この2例だけで原因を断定することはできません。それでも、自己ベスト3時間55分のAさんでさえ、前半を抑えて走ってゴール前はぎりぎりでした。
だから私は、九大の坂までに余裕を使い切らないことをかなり大事にしています。
福岡で崩れやすい人のセルフチェック
当てはまるものが多い人は、本番の走り方を一度見直してみてください。
□ 前半にタイムの「貯金」を作ることが多い
□ 練習のほとんどが平地
□ 本番では時計のペースを見ながら走る
□ 坂でも設定ペースを守ろうとする
□ 過去のレースで30km過ぎに失速したことがある
□ 過去のレースで脚がつったことがある
□ ジェルを取る時間や個数を決めていない
特に気をつけたいのが、前半の「貯金」です。172万人の市民ランナーを分析した研究では、自己ベストを出したレースでも、最初の5kmはそのレース全体の平均ペースより約3%速い程度でした(出典③)。サブ4の平均ペースは1km約5分41秒なので、5分30秒くらいの入りは、この範囲に入ります。
ただし福岡では、この感覚をそのまま全区間に当てはめないほうがいいと私は考えています。
平地では走れても、坂で同じ数字を守れば強度が上がるからです。
当日の基準は「ペース」より「あと何km走れるか」
私は、お客さまに福岡マラソン用の細かいペース表を渡していません。練習では5分30秒、5分40秒といったペースを体に覚えさせます。でも、本番では地形が変わります。
数字だけを守ろうとすると、坂でも無理をしてしまうからです。代わりに使う基準は、「この強度で、残りの距離を走り切れるか」です。
スタート直後なら、「このまま42kmいけるか」。15km地点なら、「このままあと27kmいけるか」。そこで分かりやすい目安になるのが、会話できるかどうかです。
たまたま知り合いと並んだときに、
「最近どうですか」
「今日はどんな感じですか」
と気楽に話せるくらい。会話が苦しくなり始める強度は、呼吸が急に荒くなる境目である換気性作業閾値とほぼ一致する、という研究もあります(出典④)。福岡では、少なくとも九大の坂までは、「隣の人とまだ喋れる」くらいの余裕を残しておくことをおすすめします。
区間ごとの走り方
0〜5km|天神→百道
平らで、応援も多い区間です。ジョギングくらいの気持ちで入る。スタート直後の高揚感でペースを上げないようにします。
5〜19km|百道→今宿→元岡
ほぼ平らです。喋れる余裕を守る。サブ4狙いでも、1km5分40秒を超えてかまいません。
19〜21km|九大
約25m上り、折り返して下ります。時計より呼吸。サブ4狙いなら、上りは1km5分50秒前後まで落ちてOK。下りでは歩幅を伸ばして取り返そうとせず、ピッチを意識して、ブレーキを節約します。
21〜30km|今津→北崎
ほぼ平らです。ここで無理なく走れていれば順調です。
31km付近|灘山
約25mの上り。ここで初めて体力を使う。坂に合わせて上半身を傾けながら走ります。
33〜35km|二見ヶ浦
小さなアップダウンがあります。35kmで「ちょうどきつい」くらいを目指します。
35km〜|桜井→フィニッシュ
小さな上りも残っています。ここまで脚が残っていれば、余力に合わせてペースを上げます。
サブ4の平均ペースを守ることより、35kmまで走れる強度を守る。これが、このコースでは大切です。
足がつりやすい人ほど、前半を抑える
過去に脚がつった経験がある人にも、前半を抑えることをすすめています。アイアンマン(トライアスロン)の選手210人を調べた研究では、脚のつりに関係していたのは、脱水や血液中のナトリウムの変化ではなく、「速いペースで走ったこと」と「過去につった経験」でした(出典⑤)。
つりやすい自覚がある人ほど、「今日はいけそうだから少し速く行こう」ではなく、「今日はいけそうだからこそ、まだ使わない」くらいでちょうどいいと思います。
補給は「なんとなく」取らない
4時間前後走る人は、途中で糖質を補給する必要があります。スポーツ栄養のガイドラインでは、運動中の糖質は1時間あたり30〜60g、2.5時間を超える運動では最大90gが目安とされています(出典⑥)。ジェル1個に含まれる糖質量は、商品によって違います。
パッケージの「炭水化物」を確認して、まずは1時間あたり30g以上を目安にしてください。そして本番で初めて試すのではなく、次のロング走で、何を使うか・何個持つか・いつ取るかを決めて試しておきます。
大会まで約2週間。やることは3つ
11月8日の大会まで、あと2週間ほどです。今から大きく走力を変えようとするより、福岡のコースで失敗しにくい状態を作ることを優先します。
1.次のロング走で「坂では時計を見ない」
まず0円でできます。坂に入ったら、平地の設定ペースを守ろうとせず、喋れる呼吸を保つ。次のロング走で一度試してください。
2.補給を本番と同じ形で試す
ジェルの種類、個数、取るタイミングを決めます。本番までに一度、同じ形で試しておく。「当日の気分で取る」状態は、ここで終わらせておきます。
3.坂を含むジョギングを入れて、その後は疲れを抜く
私は2023年に2時間54分で走ったとき、坂のあるコースでのジョギングをかなり増やしていました。福岡では、多少の坂なら平地と勘違いできるくらいの脚を作っておく必要があると感じていたからです。西区にお住まいなら、福重の交差点から拾六町のインターに向かって、バイパスの下を走るコースがおすすめです。
1〜2kmほど緩やかな上りが続き、そのあと1km近くかけて下っていきます。本番のコースより少し傾斜がきつく、往復すれば上りも下りも練習できます。練習で本番より少し負荷をかけておくと、本番は楽に走れます。
ただし、直前まで坂の練習を続ける必要はありません。坂を入れるのは大会の1〜2週間前まで。その後は疲れを抜きます。
テーパリング、つまり大会前の調整を分析した研究では、2週間かけて練習量を4〜6割減らし、強度は保つ方法がもっとも効果的でした(出典⑦)。「不安だからもう1本」と練習量を増やすより、スタートラインに疲れを残さないことを優先します。食事も同じです。
ガイドラインでは、運動前の食事は脂質や食物繊維を控えめにして、胃腸のトラブルを避けることがすすめられています(出典⑥)。大会直前に、普段以上に無理をして食べる必要はありません。
レース後は「タイム」だけで評価しない
当日、次の4つを確認してください。
20kmの九大の折り返しを過ぎても、まだ喋れる余裕があった
ハーフ通過で「貯金がない」と焦らなかった
31km付近の灘山を、歩かずに上れた
35kmで「ちょうどいいきつさ」で、そこからペースを上げられた
4つできていれば、少なくとも狙った走り方はできています。タイムだけでなく、どこまで余裕を残せたかも振り返ってみてください。
私にも、うまくいった年と失敗した年がある
いちばんうまくいったのは2023年。2時間54分20秒でした。ハーフは1時間28分ちょうどくらいで通過しています。
前半はゆったり走り、35km付近まではサブ3のペース、1km約4分15秒までしか上げていません。そこから1km4分を切るくらいまで上げ、残り約7kmで帳尻を合わせました。後半のほうが速い、ネガティブスプリットです。
一方、3時間30分かかった年もあります。練習不足もありましたが、サブ3を狙えるくらいの練習はして臨みました。ハーフの通過は1時間28分。2時間54分で走った年と、ほぼ同じです。でも後半、脚がつりました。
同じようなハーフ通過でも、そのペースが自分にとって余裕のあるものだったかどうかで、その後はまったく違うレースになる。
私自身、この2レースでそれを経験しています。トラックで400mを走るような練習だけで仕上げた年や、調整を誤って直前に食べ過ぎた年も、うまくいきませんでした。無理して走るとろくなことがない。
マラソンの定石ですが、福岡ではそれがはっきり結果に出ると感じています。平地で速く走れることと、福岡で最後まで走れることは同じではない。私はそう考えています。
当日メモ
手荷物の受付は締め切りが早い。例年7時40分ごろですが、必ず参加案内で確認してください
帰りは、JR筑前前原駅行きの無料シャトルバス(申し込み不要)か、天神・博多駅行きの有料シャトルバス(乗車券は事前購入制)。詳しくは公式サイトのシャトルバスのページで確かめてください
4時間以内でゴールしてすぐ帰るなら、前原駅から電車がおすすめです。まだ空いています
糸島出身の私の実感では、海沿いの風は比較的穏やかです。風を必要以上に心配しなくてもいいと思っています
まとめ
福岡マラソンで意識してほしいのは、31kmの灘山だけではありません。その前、19〜21kmの九大の坂です。
山場は九大と灘山の2つ。高さはどちらも約25m
上りで平地と同じペースを守ると、体への負担は増える
九大では時計より「喋れる余裕」。サブ4狙いなら1km5分50秒前後まで落ちてOK
前半に貯金を作らない
35kmまで脚を残し、余裕があれば桜井から上げる
福岡マラソンは、きつくなってから頑張るレースではなく、きつくなるまで頑張らないレース。
私はそう考えています。私も今年、一緒に走ります。それぞれの目標に向かって、最後まで笑って糸島にたどり着きましょう。
出典
① 福岡マラソン2026公式サイト「コース・会場アクセス」(コース高低図・コースのポイント)
② Minetti AE, et al. Energy cost of walking and running at extreme uphill and downhill slopes. J Appl Physiol. 2002;93:1039–1046.(本文の数値は、論文の回帰式から筆者が試算)
③ Smyth B. Fast starters and slow finishers: A large-scale data analysis of pacing at the beginning and end of the marathon for recreational runners. J Sports Anal. 2018;4(3):229–242.
④ Persinger R, Foster C, et al. Consistency of the talk test for exercise prescription. Med Sci Sports Exerc. 2004;36(9):1632–1636.
⑤ Schwellnus MP, Drew N, Collins M. Increased running speed and previous cramps rather than dehydration or serum sodium changes predict exercise-associated muscle cramping. Br J Sports Med. 2011;45(8):650–656.
⑥ Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. Nutrition and Athletic Performance(米国スポーツ医学会ほか合同声明). Med Sci Sports Exerc. 2016;48(3):543–568.
⑦ Bosquet L, et al. Effects of tapering on performance: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2007;39(8):1358–1365.