乳酸菌を増やす。
食物繊維を追加する。
発酵食品を毎日食べる。
それでもお腹の調子が整わないと、「もっと腸によいものが必要なのかも」と考えていませんか?
その腸活、「細菌」の話だけになっていませんか?
実は、私たちの消化管に関わる微生物は、細菌だけではありません。「真菌」と呼ばれる、酵母などの仲間もいます。
今回は、小腸での真菌の過剰な増殖と消化器症状の関係が研究されている、**SIFO(シフォ)**についてお話しします。
こんにちは。ニューヨークを拠点に、食事と健康についてお伝えしている栄養学博士のいとうゆきです。
最初に、ひとつ大切なことを。
SIFOは、診断や治療について研究がまだ限られるテーマです。
だからこそ、「あなたの不調はカンジダが原因!」という情報に飛びつく前に、何がわかっていて、何がまだわかっていないのかを知っておきましょう。
① SIBOとSIFO。一文字違うと、何が違う?
前回の記事では、小腸で細菌が過剰に増えることなどによって症状が生じる「SIBO」をご紹介しました。
今回のSIFOは、Small Intestinal Fungal Overgrowthの略。
小腸で真菌が過剰に増え、消化器症状を伴う状態を指します。研究では、カンジダ属などの真菌が報告されています。
用語主に注目する微生物SIBO細菌SIFO真菌(酵母など)
「菌」という日本語は同じでも、細菌と真菌は異なるグループです。
そのため、「菌の問題なら、対処も同じだろう」とは考えられません。
② 「カンジダがいる=病気」ではない
「真菌」「カンジダ」と聞くと、体にいてはいけないもののように感じるかもしれません。
でも、カンジダの仲間は、健康な人の体にも存在し、通常は問題を起こさないことがあります。
ここで大切なのは、「存在していること」と「不調の原因になっていること」を区別すること。
便の検査でカンジダが見つかったとしても、それだけで「小腸で過剰に増えている」「今のお腹の不調はそのせい」とは判断できません。
また、SIFOは、口腔や腟のカンジダ症、血液などに及ぶ侵襲性カンジダ症と、そのまま同じものとして扱う話でもありません。
検査で名前を見つけて、すぐに“退治する相手”にしないでください。
③ お腹の張りやガスだけで、見分けられる?
SIFOが報告された患者さんには、お腹の張り、ガス、げっぷ、消化不良感、吐き気、下痢などの症状が見られています。
でも、これらはSIFO特有の症状ではありません。SIBOやIBSなどでも起こり得ます。症状だけで区別するのは困難です。
「甘いものが好きだから」
「食後に張るから」
「乳酸菌を飲んでもよくならないから」
その理由だけで、SIFOだと決めることはできません。
そして、SIBOでは呼気検査が使われることがありますが、一般的な水素・メタンの呼気検査は、SIFOを診断する検査ではありません。
SIFOの研究や専門的な評価では、内視鏡で小腸の液を採取し、真菌を培養する方法が用いられています。ただし、採取・培養方法や結果の解釈には課題があり、誰にでも手軽に行う検査ではありません。
「検査をすれば、すぐ原因がひとつに決まる」というほど単純ではないのです。
④ 「砂糖をやめれば、カンジダがいなくなる」は本当?
SIFOやカンジダについて調べると、「砂糖を断つ」「果物や主食も避ける」といった食事法を見かけることがあります。
ここでは、2つの話を分けて考えましょう。
甘い飲み物やお菓子の摂りすぎを見直すこと。
特定の食事で、SIFOを治せると主張すること。
この2つは、同じではありません。
いわゆる「カンジダクレンズ食」が、病気の治療に有効だと示す臨床試験はありません。食事を変えて体調がよくなっても、それが真菌を減らした結果なのか、食事全体が変わった影響なのかは、別に検討する必要があります。
同様に、低FODMAP食で張りが軽くなったとしても、SIFOの診断や治癒の証明にはなりません。
「真菌を飢えさせよう」と制限を強めるうちに、食べられるものが減り、必要な栄養まで不足する。
そんな方向に進まないためにも、食品を削る前に、その制限の目的と根拠を確認しましょう。
⑤ 腸活がうまくいかないとき、必要なのは「もっと強い除菌」?
抗菌サプリでよくならなければ、次は抗真菌ハーブ。
そのように、自己判断で対策を強め続けていませんか?
よくならないことは、「もっと強いものが必要」という証拠ではありません。
そもそも原因の見立てが合っているのか、別の病気が隠れていないか、食事制限やサプリ自体が負担になっていないかを確認する必要があります。
SIFOでは抗真菌薬による対応が検討されることがありますが、効果や最適な治療方法についての根拠は限られています。自己判断で薬や「除菌」をうたうサプリを使い続ける話ではありません。
日常生活に支障が出るほど症状が続く、食べるのがつらい、意図せず体重が減る場合などは、消化器内科で相談してください。
今日からできるのは、「菌を決めつける」より「経過を整理する」
お腹の不調があるときは、まず次のことを簡単にまとめてみましょう。
いつから、どんな症状が続いているか
食事や便通と、どのような関係があるか
最近始めたサプリや、増やした食品はあるか
服用している薬や、過去の治療・手術歴
「SIFOかどうか」を自分で判定するためではなく、相談に役立つ情報をそろえるためです。
診断名をひとつ見つけるより、経過を整理するほうが、次に必要な対応を考える助けになることがあります。
腸活を「菌を増やす・減らす」だけで終わらせない
SIBOやSIFOを知る意味は、自分に当てはまる病名を増やすことではありません。
お腹の不調を、ひとつの食品や微生物だけで説明しようとしないこと。
そして、健康情報を見たときに、
「何を根拠にしているの?」
「その検査で、何がわかるの?」
「その食事制限は、何のため?」
と、一歩立ち止まれるようになることです。
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NY在住の栄養学博士
いとうゆき