「子どもが野菜を食べてくれない!」
「せっかく作ったのに、今日も残されてしまった……」
毎日の食事づくりで、そんなお悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。
でも、私は管理栄養士として、保育園や学校、大学、そして大人の健康相談まで、さまざまな年代の方の食生活に関わる中で、強く感じていることがあります。
それは、子どもの頃の食卓は、大人になってからも、その人の食生活を支える力になることがあるということ。
今日は、私が大学生の健康相談で出会った、ある男の子のお話をさせてください。
ある大学生の夕食に、思わず感心した話
以前、工業大学で学生さんの健康相談を担当したときのことです。
その大学は男子学生が多く、一人暮らしをしている学生さんもたくさんいらっしゃいました。
健康相談では、普段どんなものを食べているのか、食事記録を見せてもらいます。
すると、本当に人によって食生活が違うんです。
そんな中、ある男子学生さんの夕食が目に留まりました。
その日のメニューは……
パックごはん
インスタントの味噌汁
ゆでたもやし
から⚫︎げクン
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コンビニの千切りキャベツ
決して豪華な食事ではありません。
でも、私はこの食事を見て、すごいなと思ったんです。
だって、一人暮らしで忙しい中、パックごはんやコンビニのお惣菜を使いながらも、きちんと野菜を取り入れているんですから。
そこで、私は思わず声をかけました。
「すごいね!から⚫︎げクンだけじゃなくて、ごはんも野菜もちゃんと食べているんだね!」
すると、その男の子は少し恥ずかしそうに、こんなことを言ったんです。
「家では、いつも野菜が出ていたので……」
私は、この言葉が今でも忘れられません。
子どもの頃の「当たり前」が、大人になっても残っている
彼は、栄養学を専門に勉強していたわけではありません。
健康のために特別な食事法を実践していたわけでもありません。
ただ、子どもの頃から自宅の食卓に野菜が並ぶのが当たり前だった。

だから、一人暮らしになっても、食事に野菜を添えるという選択が自然にできていたのかもしれません。
もちろん、この一人の学生さんの経験だけで、子どもの頃の食事が将来の食習慣を決めるとは言えません。
でも、私はこの出来事を通して、家庭で積み重ねてきた食体験の大切さを改めて感じました。
食育って、目の前の子どもに野菜を食べさせることだけではないんですよね。
将来、その子が一人で食事を選ぶようになったとき。
「野菜も食べようかな」
「今日はごはんとおかずを揃えようかな」
そんなふうに、自分で考えて選べる力を育てることでもあると思うんです。
大人になってから食習慣を変える難しさ
私はこれまで、特定保健指導など、大人の方への健康相談も数多く担当してきました。

そこで、食生活を改善することの難しさを感じる場面が何度もありました。
例えば、野菜が不足している方に、
「毎日の食事に、もう少し野菜を取り入れてみませんか?」
とお話しすると、
「うちは子どもの頃から、あまり野菜が食卓に出なかったんですよ」
「そもそも、野菜をどうやって食べたらいいのかわからなくて」
といったお返事をいただくことがあるんです。
もちろん、大人になってからでも食習慣は変えられます。
ただ、今まであまり経験してこなかったことを、生活に取り入れるのは簡単ではありません。
買い物で野菜を選ぶこと。
調理すること。
おかずとして組み合わせること。
一つひとつが、新しい習慣になります。
だからこそ、私は子どもの頃からいろいろな食材に出会い、家庭の食卓でさまざまな料理を見て育つ経験には、大きな意味があると考えています。
便利な食品を使ってもいい。大切なのは「選び方」
そして、もう一つ。
あの大学生の食事で、私が素晴らしいと思ったのは、便利な食品を上手に使っていたことです。
パックごはんでもいい。
インスタントの味噌汁でもいい。
コンビニのおかずでもいい。
忙しいときに、毎日すべて手作りする必要はありません。
大切なのは、その中でどう組み合わせるか。
ごはんだけではなく、おかずも用意する。
野菜が少なければ、カット野菜を足してみる。
汁物や冷凍野菜を活用する。
もちろん、塩分や野菜の量など、さらに工夫できるところはあります。

でも、私はまず、限られた時間や環境の中で、自分なりに食事を整えようとしていることを大切にしたいと思っています。
食育のゴールは、毎日完璧な手料理が作れるようになることではありません。
自分の生活に合った方法で、食事を選び、組み合わせる力を身につけること。
これこそ、将来に役立つ力ではないでしょうか。
子どもが今食べなくても、無駄ではない
ここで、子育て中の皆さんにお伝えしたいことがあります。
毎日頑張って野菜料理を作っているのに、子どもが食べてくれない。
そんな日もありますよね。
でも、今食べないからといって、食卓に並べる意味がないわけではありません。
例えば、
「今日はブロッコリーがあるね」
「お母さんは、このきのこが好きなんだよ」
「この野菜、焼くと甘くなるね!」
そんな何気ない会話も、食体験の一つです。
子どもは食べなくても、その食材の存在を知ったり、家族がおいしそうに食べる姿を見たりしています。
もちろん、見せていれば必ず好きになるわけではありません。
でも、いろいろな食材や食べ方に触れる機会をつくることは、将来の選択肢を広げることにつながるかもしれません。
今日の食卓が、10年後、20年後の財産になるかもしれない
あの大学生が、少し恥ずかしそうに言った一言。
「家では、いつも野菜が出ていたので」
私は今でも、この言葉を思い出すことがあります。
きっとご家庭では、毎日の食事に野菜を用意することが特別なことではなかったのでしょう。
でも、その日々の積み重ねが、一人暮らしになった彼の食事の選び方に表れていたように感じました。
子どもの頃の食生活は、将来の健康を必ず決めるものではありません。
大人になってからでも、食生活は変えられます。
そして、食習慣は家庭だけでなく、学校や友達、さまざまな経験を通じても育まれます。
だからこそ、保護者の方がすべてを背負う必要はありません。
でも、毎日の食卓でできることも、きっとたくさんあります。
今日、子どもが野菜を食べなくても。
せっかく作った料理を残されても。
そんな一日だけで、食育が失敗したわけではありません。
今すぐ食べてもらうことだけを目標にせず、いつか自分で食事を選べる力を育てていく。
そんな長い目で、毎日の食卓を大切にしていきたいですね。
そして何より、家族みんなで食べることを楽しんでくださいね😊
管理栄養士・料理講師 藤田えみこ
【参考資料】
農林水産省「食育の推進」
厚生労働省「第5次食育推進基本計画」
※記事内のエピソードは、健康相談の現場で経験した事例を、個人が特定されないように紹介しています。