「成績を上げるために、毎週塾に通う」
「苦手科目だから、定期的に個別指導を受ける」
「受験が終わるまでは、今の授業を続ける」
こうした選択は、ごく自然なものに見えるかもしれません。
しかし、一度立ち止まって考えてみてください。
なぜ、勉強を教わるサービスは、毎週決まった回数の授業を受け続ける形が一般的なのでしょうか。
本当に、お子さんには毎週その回数の授業が必要なのでしょうか。
それとも、定期的な授業を提供することが、塾というビジネスにとって都合のよい仕組みだからなのでしょうか。
私は長年、個別指導の現場に携わってきました。だからこそ、今回は授業を提供する側の視点も含めて、この問題を考えてみたいと思います。
1.定期指導は、生徒のためだけに設計されているのか
個別指導には、明確なメリットがあります。
わからない問題を質問できる。自分の理解度に合わせて説明してもらえる。苦手分野を重点的に学べる。学習習慣が身につくまで、定期的にサポートを受けられる。
こうした支援が必要な生徒にとって、個別指導は有効な選択肢です。
一方、塾を運営する会社の立場から考えてみましょう。
毎週決まった曜日・時間に授業を提供し、月謝を受け取る。生徒が継続して在籍すれば、翌月以降の売上を予測しやすくなります。講師の配置や教室の運営計画も立てやすくなります。
つまり、定期指導には、事業者にとっても大きな利点があります。
ここで言いたいのは、定期指導が悪いということではありません。
生徒にとって必要な支援の量と、会社が継続して提供したい授業の量は、必ずしも一致しないということです。
会社にとっては毎週の授業を継続してもらうことが望ましくても、生徒にとっては、ある時期から授業を減らし、自分で演習する時間を増やしたほうがよい場合もあります。
それでも、毎週同じ回数の授業を受け続ける契約になっていれば、その変更には手続きや費用の問題が伴うことがあります。
定期指導という仕組みが、生徒の学習上の必要性だけでなく、事業者の収益構造にも支えられていることは、知っておいてよいのではないでしょうか。
2.塾の市場が拡大すれば、学力も向上するのか
私は、2003年から2022年までの学習塾市場の推計値と、OECDのPISAにおける数学・読解・科学の得点を比較しました。
その分析では、使用した市場規模データは拡大していた一方、PISAの3分野の平均得点には一貫した上昇傾向が見られず、両者の間に統計的に有意な相関は確認できませんでした。
ただし、この結果から、個別指導に教育効果がないと断定することはできません。市場全体の規模と国際学力調査の結果を比較したものであり、個々の生徒が指導を受けた場合の効果を直接測定した分析ではないからです。また、市場規模の推計方法や、PISAの実施形式なども考慮する必要があります。
それでも、この分析は一つの問いを投げかけます。
教育サービスにお金が使われ続けていることと、子どもたちが自力で問題を解けるようになっていることは、同じではありません。
塾に通っていること、毎週授業を受けていること、一定の月謝を支払っていること。それ自体は、学力が伸びている証拠にはなりません。
本来、確認すべきなのは、サービスの利用状況ではなく、その結果として何ができるようになったのかということです。
3.「毎週の授業が必要」という前提を疑ってみる
例えば、数学の問題を考えてみましょう。
講師の説明を聞けば理解できる。授業中なら、似た問題も解ける。しかし、数日後に一人で解こうとすると、途中で手が止まってしまう。
この生徒に必要なのは、毎週の授業を増やすことだけでしょうか。
もちろん、理解が不十分なら、講師による説明が必要です。
しかし、解法を理解しているのに自力で解けないのであれば、演習や復習の時間が不足している可能性があります。
解説を見ずに問題を解き直す
間違えた原因を特定する
数日後にもう一度解く
自力で解けたかを確認する
次に取り組む課題を決める
こうした学習活動を積み重ねることも、学力を伸ばすうえで欠かせません。
授業を受けている時間だけが、勉強の時間ではないのです。
それにもかかわらず、成績が伸び悩むたびに授業の追加を検討するのであれば、少し順番を変えてみてもよいのではないでしょうか。
まず、何ができていないのかを確認する。その原因が説明不足なら授業を受ける。演習不足なら自分で解く時間を増やす。計画を立てられないなら学習計画を整える。
必要な支援を、原因に合わせて選ぶのです。
4.定期指導を続けることが、目的になっていないか
保護者の方に、次の点を確認していただきたいと思います。
① 授業で何ができるようになったのか
「わかりやすく教えてもらっている」だけでなく、以前は解けなかった問題を、自分の力で解けるようになっているでしょうか。
② 授業がない日にも勉強できているか
毎週授業を受けていても、それ以外の日にほとんど勉強していなければ、学習時間全体の使い方を見直す必要があるかもしれません。
③ 今の授業回数は、本当に必要なのか
苦手分野を克服するために週2回の指導が必要な時期もあるでしょう。一方で、基礎を理解した後は、週1回の確認や、必要なときだけ質問できる環境で十分な場合もあります。
④ 授業を減らしたら、何が困るのか
説明を受ける機会が不足するのでしょうか。それとも、勉強を始めるきっかけや、計画を管理してくれる人がいなくなるのでしょうか。
この違いは重要です。
もし、授業そのものよりも、勉強を始めるきっかけや進捗管理が必要なのであれば、それを支えるために毎週の個別指導を利用することが唯一の方法とは限りません。
授業が必要なのか、授業に付随する別の機能が必要なのか。
ここを切り分けるだけでも、選択肢は変わってきます。
5.授業を提供し続けるビジネスと、授業を必要としなくなる教育
ここで、もう一つ考えたいことがあります。
生徒が自分で勉強できるようになることは、教育にとって望ましい成果です。
自分で計画を立て、問題を解き、間違いを修正し、必要なときに人に質問する。そうした力が身につけば、講師が常にそばにいなくても学習を進められるようになります。
しかし、定期指導を中心とするビジネスでは、授業の継続が売上につながります。
生徒が自立して学習できるようになり、授業の回数を減らしたり、サービスを卒業したりすることは、生徒にとっては成長であっても、事業者にとっては売上の減少につながり得ます。
これは、個々の講師や会社が意図的に生徒の自立を妨げているという意味ではありません。定期的なサービス提供によって収益を得る仕組みそのものが持つ、構造的な違いです。
だからこそ、保護者は「このサービスを続けるべきか」を、提供者の提案だけに委ねず、お子さんの状態から判断することが大切です。
必要なときには、ためらわずに指導を受ける。自分でできるようになったことは、自分で取り組む。支援の形は、成長に応じて変えていく。
そのような柔軟な考え方があってもよいはずです。
6.必要なのは、授業を受け続ける仕組みではなく、勉強を進められる仕組み
では、定期的な個別指導を減らしたり、利用しなかったりする場合、何が必要になるのでしょうか。
もちろん、何の支援もなく、すべてを子ども任せにすればよいわけではありません。
勉強する内容を決められない子には計画が必要です。学習が続かない子には、取り組む時間や場所を確保する工夫が必要です。わからない問題が出てきたときには、質問できる環境も必要でしょう。
つまり、必要なのは、授業をなくすことではなく、学習に必要な機能を分けて考えることです。
説明する: わからない内容を理解する
演習する: 自分の力で問題を解く
管理する: 計画と進捗を確認する
支援する: 困ったときに質問や相談ができる
これらをすべて毎週の個別指導でまかなう必要はありません。
お子さんの状況に応じて、必要な機能を組み合わせればよいのです。
私は、教育の価値は、授業を何時間提供したかだけでは測れないと考えています。
授業がない日にも学習が進むこと。自分で間違いを修正できること。必要なときに適切な支援を選べること。
そうした状態をつくることも、教育の重要な役割です。
7.最後に、保護者の方へ
お子さんが定期的に個別指導を受けているなら、次の三つを考えてみてください。
今の授業は、お子さんのどの課題を解決するために必要なのでしょうか。
その課題は、今の授業回数でなければ解決できないのでしょうか。
お子さんが自分で勉強を進められるようになったとき、支援の形を変えることはできるでしょうか。
個別指導が必要な子どもはいます。定期的に授業を受けることが、学習習慣や理解の定着に役立つ場合もあります。
しかし、毎週授業を受けることが当たり前だからという理由だけで、継続する必要はありません。
定期指導を続けることが、会社にとって都合のよい仕組みになっていないか。そして、その仕組みは、今のお子さんにとっても最適なのか。
この二つを分けて考えてみてください。
お子さんに必要な支援は、授業を提供する側の都合ではなく、お子さん自身の課題と成長に合わせて選ぶべきものです。
授業を受け続けることを目的にするのではなく、自分で学習を進められるようになることを目指す。
その視点から、今の学習環境を一度見直してみてはいかがでしょうか。