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東京ゾンビ・サバイバル生き残るための23の掟

東京ゾンビ・サバイバル生き残るための23の掟
表紙

98冊目の本を出版しました。
昔から大好きなゾンビをテーマにしました。
東京でゾンビが発生したら、どう生き残るかを検証する本です。
どこで誰と暮らせばいいか、武器は何を持てばいいか、を大真面目に書いています。
もうすぐ書き上げます。
防災にも役立つ本に仕上げますので、ぜひお読みください。


はじめに 

英雄は、だいたい最初に死ぬ。
その日、東京はいつも通りだった。
午前8時12分。
山手線は乗車率150パーセントで品川を出た。誰もスマホから顔を上げなかった。ドアの横に立っていたスーツの男が、小さくうめいて膝をついたことにも、誰も気づかなかった。気づいたとしても、きっとこう思っただけだろう。
「朝から飲みすぎか」
「貧血かな」
「駅員さんが何とかするだろう」。
この本は、その「誰も気づかなかった数分間」のために書かれている。
先に言っておく。この本は、あなたを英雄にはしない。ゾンビの群れに飛び込み、仲間を救い、夕日を背に立つ。そんな人間は映画の中にしかいないし、現実の英雄は、だいたい最初に死ぬ。
この本が教えるのは、もっと地味で、もっと確実なことだ。
逃げ方。
隠れ方。
水の確保の仕方。
仲間の選び方。
そして、追いつめられた人間の見分け方。
私は、東京でタクシーを8年転がしていた。2003年から2011年まで、昼も夜も、23区の表通りも裏道も走り回った。酔っぱらいも、終電を逃したサラリーマンも、行き先を言わずに泣き出す客も乗せた。
その経験から断言できることがある。
東京という街は、ふだんは驚くほど便利で、ひとたび何かが起きると、驚くほどもろい。

2011年3月11日、駒沢通り
その瞬間、私はお客さんを乗せて駒沢通りを走っていた。
午後2時46分。ハンドルが、ふっと軽くなった。次の瞬間、車が横に滑った気がした。タイヤがパンクしたのかと思った。だが、窓の外を見て、そうではないとわかった。電柱が揺れていた。電線が縄跳びのように波打っていた。歩道の人たちが、立ったまま動けずにいた。
たいへんなことが起こった。8年間、東京の道を走ってきた体が、そう告げていた。
揺れがおさまったあと、私はある大物政治家の自宅のそばでお客さんを降ろした。
すぐに営業所に戻ろう。
そう思ってドアを閉めかけたとき、別の男性が自分でドアを開け、後部座席に座り込んだ。
男性は、早口でこう言った。
「母が千葉にいます。妻が五反田にいます。二人を迎えに行きたいんです。二人が無理なら、どちらかだけでも助けたい。どっちに行けばいいでしょう」
私は答えに詰まった。ラジオは、首都圏の道路と鉄道が大混乱になっていることを伝え続けていた。千葉までは、もうたどり着けない。
私は、正直にそう告げるしかなかった。
私たちは、五反田へ向かった。
母か、妻か。
あの日、東京中のどこかで、何万人もの人が同じ問いを抱えていたのだと思う。
街は、すでに壊れ始めていた。電話は通じなかった。信号が消えた交差点もあった。家族の無事を確かめようと、誰もが携帯電話を握りしめていたが、画面には「圏外」か「話し中」の文字が並ぶだけだった。
不思議なことに、なぜかTwitterだけが動いていた。
人々は、短い文字で互いの無事を伝え合っていた。
そして、道路。
東京の車に、譲り合いという言葉はないらしい。信号の消えた交差点に、四方から車が鼻先を突っ込む。誰も止まらない。誰も譲らない。交差点はクラクションの嵐だった。ふだんは礼儀正しい東京の人たちが、ハンドルを握ったとたん、自分と自分の家族のことしか考えられなくなっていた。責める気にはなれない。私だって、同じ立場ならそうなったかもしれない。
あの日、私は身をもって知った。
東京は、すぐに壊れる。
ゾンビは一体も現れなかった。
それでも、たった数分の揺れで、世界一便利な街は、電話もつながらず、車も進まず、誰もが家族の居場所さえわからない街に変わった。
もし、あの日の東京に、ゾンビが歩いていたら。
この本は、その想像から始まっている。
もうひとつ、正直に言っておく。
この本に書くゾンビは、架空の存在だ。
だが、この本に書く「水の備え」「非常袋の中身」「家族の集合場所の決め方」は、すべて本物の防災にそのまま使える。
ゾンビは来ないかもしれない。
だが、大地震は必ず来る。読み終えたとき、あなたが家の非常袋を開けて中身を確かめたくなったら、この本の役目は半分果たせたことになる。
残りの半分は、あなたが生き残ることだ。
さあ、始めよう。午前8時12分の山手線から。

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