「話が長い」と言われる理由 ― 言葉は一度にひとつずつしか届かない「言語の線条性」
N&Sラーニングの西部直樹です。今回は、伝え方のテクニックの土台になる「言葉の性質」についてお話しします。
「一生懸命説明したのに…」はなぜ起きるのか
こんな経験はありませんか。
・ 報告の途中で上司に「結局、何が言いたいの?」と遮られた
・ 自分では順を追って話したつもりなのに、「話が長い」と言われた
・ 説明を聞いた相手が、途中から明らかについてこられなくなっていた
内容が間違っていたわけでも、言葉が足りなかったわけでもありません。原因は多くの場合、話す「順番」にあります。
言葉は一列に並んでしか届かない
絵や写真は、ひと目で全体を見ることができます。ところが言葉はそうはいきません。
本を一冊、まるごと一瞬で理解することはできません。教科書の1ページでさえ、丸ごと一度に頭に入れることは不可能です。言葉は、一語ずつ、一文ずつ、線のように順番に発せられ、順番に理解されていきます。
話すときも、聞くときも、書くときも、読むときも同じです。言葉は塊のままでは受け取れないのです。
この性質を「言語の線条性」と呼びます。言語学者ソシュールが『一般言語学講義』の中で、言語の原理のひとつとして唱えたものです。
話し手は「全体」を、聞き手は「順番」だけを持っている
ここで、もうひとつの前提「情報の非対称性」が関わってきます。話し手は、話の全体像も、背景も、結論も、すべて頭の中に持っています。だから話が前後しても、途中で飛躍しても、自分の頭の中では全部つながっていて、わかるのです。
ところが聞き手は違います。聞き手が受け取れるのは、話し手が口にした順番どおりの言葉だけです。届いた順に、ひとつずつ組み立てていくしかありません。
たとえば、こんな報告です。
「昨日のA社との打ち合わせなんですが、先方の部長が来られなくて。あ、その前に先週見積もりを出していて、それで価格の話になったんですけど、結論から言うと来月から発注いただけそうです。ただ、条件があって…」
話し手にとっては、起きたことを正直に話しているだけです。でも聞き手は、「部長が来なかった」「見積もりを出した」「価格の話」と、行き先のわからない情報を抱えたまま聞き続けることになります。話が戻るたびに頭の中で並べ替えが必要になり、結論にたどり着く前に疲れてしまいます。
「話が長い」と感じさせるのは、時間の長さより、聞き手が順番に理解できない並び方なのです。
プレゼンテーションの研修では、受講者の方に、説明したい内容を事前に用意してきてもらいます。その原稿を読むと、前置きが長く、何を伝えたいのかがなかなか見えてこないものが少なくありません。書いた本人の頭の中では話がつながっているので、前置きから順に書くのが自然に感じられるのです。
ところが、言葉は順番にしか届かないことを知り、ポイントから伝える方法を理解すると、同じ受講者の方が、最初に要点を示してから説明できるようになっていきます。
明日からできる3つのこと
① 最初に「全体」を一言で示す
「ご報告が2点あります」「A社の件で、結論と今後の対応をお伝えします」
言葉は一度に全体を見せられません。だからこそ、最初に「これから何の話を、いくつするのか」という地図を渡します。聞き手は地図があるだけで、その後に届く言葉を正しい場所に置きながら聞けるようになります。
② 話す前に、順番を決める
頭に浮かんだ順に話すと、話し手の思い出した順番になります。聞き手が理解しやすいのは、「結論 → 理由 → 具体的な内容」の順です。先ほどの報告なら、「来月から発注いただけそうです。条件が一つあります。経緯をご説明します」と並べるだけで、ずっと聞きやすくなります。
③ 一文にひとつのこと、話を飛ばさない
「〜なんですが、〜で、〜したんですけど」と文をつなげるほど、聞き手は文の終わりまで意味を保留しなければなりません。一文を短く切り、ひとつの文にはひとつの内容だけを入れましょう。途中で補足が必要になったら、「少し話を戻します」と一言断ってから戻ると、聞き手は迷わずについてこられます。
まとめ
言葉は、一列に並んで、ひとつずつしか届きません。話し手の頭の中では全体がつながっていても、聞き手は届いた順番に組み立てるしかありません。
だから情報を発信するときは、相手が理解しやすい順番に並べてから話すことが大切です。まずは明日、報告や説明をする前に、「最初に何を言い、次に何を言うか」を一度だけ考えてみてください。それだけで、「話が長い」と言われることは減りやすくなります。