体験ツアーを企画したいという方から、「自分の地域には有名な観光地がない」「旅行者に喜んでもらえるような場所が見つからない」という相談を受けることがあります。
しかし、私がこれまで体験ツアーを企画・開催し、ガイドの育成にも携わってきた経験から感じるのは、必ずしも有名な観光地が必要なわけではないということです。
2024年に秀和システムから出版した『資格がない人のための体験ツアー企画・運営ガイド』でも、次のように書きました。
「ゲストは、現地に住んでいるか、土地勘のあるガイド(ホスト)の思い入れを体験したい」
これは、私が体験ツアーを考えるうえで、今も大切にしている視点です。
日暮里の観光ツアーではなく、日暮里繊維街を案内する
本書で紹介した事例の一つに、東京・日暮里繊維街を案内する体験ツアーがあります。
以前、あるガイドから「日暮里でツアーをやってみたい」と相談されたことがありました。
私は、日暮里と聞いて、まず谷中・根津・千駄木、いわゆる谷根千の観光エリアを思い浮かべました。観光客にも人気があり、すでに多くのツアーがあります。
ところが、彼女が案内したかったのは、反対側にある日暮里繊維街でした。
布地や洋裁用品を扱う店が集まる街です。彼女自身がソーイングを趣味にしていて、普段から買い物に通っている場所でした。
私には、そこが面白いと感じられました。
旅行者向けに下調べした観光地ではなく、本人が日常的に利用し、店の特徴や商品の違いを知っている場所だからです。
その後、この体験はインバウンド向けのツアーとして実際に予約が入り、参加者からの評価も得られるようになりました。
普段の暮らしが、ガイドの専門性になる
この事例で印象に残っているのは、彼女がその後も普段どおり買い物に通いながら、新しい店や商品の情報を自然に蓄積していたことです。
お客様の要望を聞くことで、それまで知らなかった店にも足を運ぶようになったそうです。
つまり、ツアーを開催すること自体が、ガイドの知識をさらに豊かにしていったわけです。
これは地域の観光資源を考えるうえで、大きなヒントになります。
鉄道が好きな人なら、普段から利用している駅や路線。料理が好きな人なら、地元の市場や食材。歴史が好きな人なら、街角に残る石碑や古い建物。
観光パンフレットに大きく掲載されていない場所でも、そこに詳しい人と一緒に歩くことで、普通の観光とは異なる体験になります。
体験ツアーを考えるときの3つの視点
私が初心者の方におすすめしたいのは、いきなり観光コースを作ることではありません。
まず、次の3つを考えてみてください。
1. 自分が普段から好きで、何度でも訪ねている場所はどこか。
継続して関わっているからこそ、他の人が知らない情報があります。
2. 初めて訪れる人が、一人では分からないことは何か。
単なる場所の説明ではなく、案内する人がいるからこそ得られる体験を探します。
3. 自分の経験や思い入れを、どう伝えるか。
なぜその場所が好きなのか、どんな発見があったのか。そうした背景も商品価値の一部です。
ツアーの所要時間や訪問順序を決めるのは、その後でも遅くありません。
もちろん、実際に商品として販売するには、安全性、料金設定、旅行業法などの法令、予約受付方法も考える必要があります。
しかし、その前に考えたいのは、「なぜ自分が、この体験を案内するのか」ということです。
ガイドの人柄や経験も、選ばれる理由になる
体験ツアーは、同じ場所を歩いていても、誰が案内するかによって内容が変わります。
旅行会社の一般的な観光コースと同じことをする必要はありません。
地元に暮らしている人、趣味を長年続けてきた人、特定の分野に詳しい人には、それぞれの持ち味があります。
私自身も鉄道への関心から体験ツアーの世界に入り、現在は成田空港や周辺地域を案内する活動を続けています。
成田空港は飛行機に乗るための通過点と思われがちですが、ターミナルや交通機関、歴史、周辺の地域を知ることで、空港そのものが訪問する目的になります。
観光商品を作る出発点は、有名な場所を探すことだけではありません。
自分が当たり前だと思っている知識や経験の中に、ほかの誰かが体験してみたい価値が隠れていることがあります。
まずは、あなたが好きで何度も訪れている場所を一つ、思い浮かべてみてください。
そこから、新しい体験ツアーの企画が始まるかもしれません。
著者・参考書籍について
斉藤常治(観光コンサルタント・成田空港リトリート合同会社代表)
2018年から、国内外の体験予約サイトを活用し、鉄道や空港、地域の歴史などを題材とした現地・オンラインの体験ツアーを企画・開催。体験ツアーの造成、ガイド育成、OTAへの掲載支援、講演・研修などに取り組んでいます。
本記事は、2024年8月に秀和システムから出版した著書『資格がない人のための体験ツアー企画・運営ガイド』第5章「事例で見る現地体験ツアー成功のヒント」に収録した実践事例をもとに構成しています。